エクソソーム類似の脂質ナノ粒子をiLiNPで作製した論文が公開されました。

論文タイトル
One-Step Production Using a Microfluidic Device of Highly Biocompatible Size-Controlled Noncationic Exosome-like Nanoparticles for RNA Delivery
(RNA運搬のための、高度に生体適合性が高く且つサイズ制御された非カチオン性エクソソーム類似ナノ粒子の、マイクロ流路デバイスを用いた1ステップ製造)

掲載雑誌
ACS Appl. Bio Mater. 2021, 4, 1783−1793


RNA (siRNA) を内封したアニオン性~中性粒子を、iLiNPでワンステップ作製した論文です。

iLiNPを使えば、核酸封入アニオン性脂質粒子の一種であるエクソソームに類似のものが簡便かつ大量に作れるようになります。

・・・

RNA封入脂質粒子は最近ですと新型コロナウイルスのワクチンなどで使用されています (mRNAワクチン)

アニオン性高分子であるRNAはカチオン性の脂質で粒子化するのが容易であり一般的ですが、カチオン性の粒子は体内の様々なところに非特異的に吸着するため、例えば高用量投与時における細胞毒性の発現などが懸念されます。

一方、エクソソームなどのアニオン性脂質粒子や中性脂質粒子は非特異的吸着が少ないため、比較的低毒性のRNA運搬体粒子として期待されます。
しかし、アニオン性高分子のRNAはそのままではアニオン性又は中性の脂質と電気的な引き合い(静電相互作用)が無いため、粒子の中にRNAを効率よく取り込むことができませんでした(内封率が低い)。

今回の論文成果は、RNAの電荷をカチオン性分子でキャンセルしつつ、更にマイクロ流路デバイスのうち特にiLiNPを用いることで、アニオン性又は中性脂質粒子の中に高い内封率でRNAを内封できることを発見した点になります。
更に、iLiNPの特性を活かして、細胞内に粒子を取り込ませるために必要な粒径に制御することにも成功しています。
即ち、iLiNPの特徴的な流路構造(特許出願済)が、低毒性のRNA運搬体粒子を作るために重要ということがわかりました。

こうしてできた脂質粒子に適宜必要なたんぱく質などを追加すれば、エクソソームに類似したRNA運搬体粒子を大量かつ簡便に作ることができます。
エクソソームは粒子膜表面に存在するタンパク質などを利用して、特定の組織や細胞にのみ向かう性質が知られており、現在は欧米を中心にトランスフォーマティブな(世界を変える)医薬品としての利用検討が盛んです(エクソソーム創薬)

従来、エクソソーム創薬に使うエクソソームは細胞から分離する必要があり、極めて高コストでした。
しかし、iLiNPを用いた(細胞を用いない)大量製法が確立すれば、エクソソーム創薬に大きなブレイクスルーをもたらします。