iLiNPを使用した論文2報が公開されました。

(1) Self-homing nanocarriers for mRNA delivery to the activated hepatic stellate cells in liver fibrosis
J Control Release. 2023 Jan;353:685-698. doi: 10.1016/j.jconrel.2022.12.020. Epub 2022 Dec 15.
肝線維化の進行において重要な役割を果たす活性化肝星細胞(aHSCs)へmRNAを選択的に送達するための新規脂質ナノ粒子(LNP)を開発した旨の報告です。aHSCsへの薬物デリバリーは一般に難しいと言われていますが、独自の脂質ライブラリーを持つ筆者がマイクロ流路デバイスiLiNPを用いたLNP試作及び最適化検証を実施した結果、独自脂質を含む有望な新規LNP組成を見出しました。更に選択的送達のメカニズムを解析したところ、脂質の一種であるC15A6がaHSCsに高い親和性を有すること、及びC15A6含有LNPがクラスリン依存エンドサイトーシスによってpKa(酸解離定数)依存的にaHSCsに取り込まれることを明らかにしました。肝星細胞への選択的送達にはビタミンAなどのリガンドが必要と考えられてきましたが、本論文はリガンド無しのLNPでも肝星細胞への選択的送達が可能であることを示した点で画期的であると考えられます。

(2) Controlling lamellarity and physicochemical properties of liposomes prepared using a microfluidic device
Biomater Sci. 2023 Feb 8. doi: 10.1039/d2bm01703b. Online ahead of print.
20年以上前から臨床で使われているリポソーム医薬品は近年ではマイクロ流路デバイス等による連続生産も可能になっていますが、その際のリポソーム脂質膜のラメラ性(層構造)などについて詳しく解析されたケースは多くありません。そこで本論文ではマイクロ流路デバイスiLiNPを用いたパクリタキセル内包リポソームの調製において様々な調製条件を試行し得られたリポソームの物性との関連を調べました。結果、原料脂質の初期濃度と原料液(2液)の流量比を変えることで脂質膜の膜数が変化することがわかり、iLiNPで多重膜にしたリポソームでは内包したパクリタセルの放出が緩やかになることを確認しました。リポソーム等による薬剤内包化のメリットの一つとして徐放性の付与が挙げられますが、本論文では徐放性プロファイルを原料濃度と流量比というシンプルなパラメーターでも簡単に調整できることを示した点で大変有用なものと考えられます。